自作物語~第三作目「ベストフレンズ」~

2022年7月4日

第三作目「ベストフレンズ」

僕は小学生のロビン。

内気で自分から話しかけることができない小学3年生だ。

体が小さくて時々女の子に間違われることもあるんだ。

毎日学校では独りぼっちで、勇気を振り絞って声をかけようと思っても、怖くなって声が出てこなくていつも失敗しちゃう。

けど、全然さみしくなんてないんだ。僕には仲の良い友達がいるから。

その友達はいつも僕の帰りを部屋でじっと待っていてくれる。

友達の名前はクマのグーニー、ウサギのエドワード、ペリカンのスイッキー、犬のウォールツ、ペンギンのリリー。

そう、僕の友達はぬいぐるみ達!

彼らは自分で動くことはできないけれど、僕たちの心は繋がっているので、何にも問題なんてないんだ。


ずっと友達ができず、両親ともうまくいっていなかった僕にとっては、唯一の友達であり、最高の理解者である彼らと遊ぶことだけが全てだった!


彼らは非常に魅力的で、実に色んなキャラクターを演じることができる。


時にはヒーロー、時には悪役。


様々な役回りを見事にこなしながら、都度変化する世界観の中を縦横無人に駆け巡るのだ。


今日も今日とて最新のプロジェクトに彼らは奔走していた。


宇宙をテーマにした壮大な冒険。


宇宙の数々の星を守るための闘い・・・。

壮大な戦いは僕だけには確かに見える。


そして、今まさにぬいぐるみ達は宇宙を舞台に戦いを始めていた。

しかし、戦いに夢中になっていた僕たちの世界を打ち破る神の鉄槌が下された。


「いつまでこんなぬいぐるみで遊んでいるの?友達の一人でも作ったらどうなの?」とイライラしたような口調で僕とぬいぐるみの仲を裂こうとする悪魔の登場。


両親である。


僕は「彼ら以上の友達なんていないよ」。と言った。

世間体を気にしているのか、果ては何か気に入らないことがあったのだろうか、般若の様な形相で僕に言った。


「もしも、友達ができなければぬいぐるみは処分よ。分かったわね。」そういうと部屋から出て行った。
どうしてこんなひどいことをいうのだろう?

僕は悲しさのあまり涙をこらえきれなかった。


ぬいぐるみが何をしたのだろう?


僕が何をしたのだろう?


友達がいないことがそんなにも良くないことなのだろうか?


僕はその日一晩中泣いた。


次の日ぬいぐるみ達を守るために、友達を作るために、思い切ってクラスメートに話しかけてみた。

「ねえ、あの・・・」
「何か用?」
「えーと・・・その・・・」
「用がないなら話しかけるなよ」
「・・・・・」


こんな具合で全くうまくいかなかった。


どうしたら良いのかわからず、先生に相談した。


「どうしたら友達ができますか?」
「もっと自分から色んな人に興味を持って話してみることかな?」
「でも、僕・・・あまり上手に人に話しかけられないから。それにみんなの会話に入れなくて・・・」
「どうして?」
「だって、みんな同じことを喋っているもの。~が可愛いとか、~行こうぜとか。僕は全然そんなの楽しくない。」
「じゃあどういうのが楽しいんだ?」
「うーん、ぬいぐるみで遊ぶの。ただ、遊ぶんじゃないよ。想像して、自分のイメージで世界を作って、そこで遊ぶの。」
「なるほど。それは面白そうだ。そうしたらみんなでそれをやればいいんじゃないか?」
「みんなで・・・?」
「ああ。みんなの想像を合わせたら、きっとものすごい楽しいと思うよ。そして、それはきっと素敵なストーリーになるだろう。」


僕は先生と話をして、みんなでぬいぐるみで遊ぶという選択肢を見つけた。
みんなで想像の世界で遊ぶ。
そんなことができるのだろうか?
でも、少しだけドキドキしたし、何よりもぬいぐるみ達と一緒に遊べることが嬉しかった。
どうしたらみんなとぬいぐるみで遊べるのかな?
僕は少し考えてみた。
男子はサッカーや自転車などで遊ぶ子供が多く、そのほかの子はボードゲームや絵本を読んでいる。
女子はみんなでそろっておしゃべりをしたり、動物と遊んだりしている。
ぬいぐるみで遊んでいる人は居なさそうだ。

僕はがっくり肩を落とした。
このままではぬいぐるみが没収されてしまう。
どうしようかと途方に暮れながら家に帰る。

家に帰るなり母が「友達はできたの?」と訊いてきた。
「まだだよ。」
「早く作りなさいよ。」
「・・・うん。」


僕はそういうと自分の部屋に入って、世界の想像を始めた。
自分が考えられなければ友達に聞くのが一番だ。
僕はぬいぐるみ達と一緒に作戦を立てることにした。


「作戦会議を始めます。何か良い意見はありますか?」
僕がそう言うと早速手を挙げた者がいる。
クマのグーニーだ。
「ぬいぐるみパーティーを開くのはどうだろう?みんなでぬいぐるみを持ち寄って紹介するんだ。」
「それはいいね!新しい友達も沢山増えそうだ!」
ウサギのエドワードが言った。
「でも、怖いぬいぐるみを連れてきたら?私、怖いわ。」
ペリカンのスイッキーが言った。
「なら、思い切って僕たちが学校で自己紹介してみるのはどうだろう?興味を持ってくれた人と友達になれるかもしれない。」
犬のウォールツが提案した。
「それはいいかもしれないね。でも、どうやって?」
ペンギンのリリーが言った。
「お話しを作るのはどうかな?みんなが登場して活躍するお話をみんなに聞かせるんだ。」
僕はみんなに言った。
「それだ!」
ぬいぐるみ達が一斉に言った。
こうして会議は終わり、僕たちのお話作りが始まった。

お話を作るのは初めてだったので、何をどうしたらよいのか分からなかった僕は、勇気を振り絞ってクラスのみんなにアイデアを出してもらおうと聞いてみることにしたのだ。

お話を作るには文章を書く必要があるが、僕はあまり得意ではなかった。

そこで、文章を書くのが得意なジェシーに見てもらおうと思った。

「ジェシー、あの・・・」

「なんの用?ロビン?用事が無いなら、あっちに行って。」

「いや、その・・・・」

「何よ!!はっきり言いなさいよ。」

「はい!えーっと、僕お話を作ってて、文章を書くのが上手なジェシーに見てもらいたいんだ。」

「お話を作ってる?へえ、面白そうね。見てあげるわ。

・・・・・・・・・。これは駄目ね。全然なってないわ。」

ジェシーの言葉に僕は肩を落とした。わかってはいたけど、直接言われることで更に自信を無くした。

僕には・・・やっぱり無理なんだ。

「仕方ないから、私が文章の書き方を教えてあげるわ。

その代わり、私も一緒にお話を作ってもいい?」

「え・・・?う、うん。勿論だよ!」

とっさに声を張り上げて、返事をしてしまった。

ジェシーはびっくりしていたけど、僕はあまりの感動で声が大きくなってしまったんだ。

初めて人とちゃんと話ができた気がする。

こうして、僕はジェシーから文章の書き方を習うことになった。

次にお話を面白くする展開を考えないといけないなと思い、今度は本を読むのが好きで、面白いお話を知っているジェームスにどういうお話が面白いのかアドバイスをもらうことにした。

「ジェームス。僕・・・お話を作っているんだけど、どういうお話が面白いのか教えてくれないかな?」

「へえ、ロビン、話を作っているのか?

そうだな・・・、いいぜ。教えてやるよ。」

ジェームスはそういうとこれまで面白いと思った作品を沢山紹介してくれた。

実を言うと僕はジェームスに苦手意識を持っていた。

ジェームスはクラスでも面白い話を知っていることから人気があり、常に周りに誰かがいる。

そんな彼と僕は打ち解けることができないだろうと思っていたけど、そんなのは僕の思い込みだったのかもしれない。


家族でしょっちゅう旅行をしているベンに旅行先の思い出話を聞いた。

「ベン。あのね、旅行の色んな思い出話を聞かせて欲しいんだ。」

「なんで?」

「僕は今お話を作っているんだ。旅行に行った体験を組み合わせればもっと面白くなると思って。」

「仕方ないな。その代わり、俺も一緒にお話し作っていいか?」

「う、うん。勿論だよ。あ、ありがとう。」

「お前ずっと人を避けていたけど、ようやく自分から話しかけてきたな。」

僕はみんなを避けていたの?みんなが僕を避けていたんじゃなくて…

僕はみんなから嫌われるのが怖くて、みんなと離れようとしていたのかな?

・・・・・こうして、クラスのみんなから話を聞いていると次第に僕がお話しを作ろうとしているのがクラス中に広まっていった。

「ねえ、お話し作っているんでしょ?こういうの面白いよ。」とみんなが僕のところにきて、これ面白いよと教えてくれるようになった。
どんどん構想が膨れ上がっていって、壮大な物語になりそうだなあとワクワクする。
でも、僕一人ではできないと思い、思い切ってみんなに一緒にお話しを作らないか誘ってみることにした。

「僕と一緒にお話を作ってくれない?みんなでやったら楽しいと思うんだ。」
みんなはそれを快諾してくれた。

最初は話しかけることすら、億劫だったけれど、今は少しだけ、自分に自信を持てるようになった気がする。


僕はさっそくみんなを家に連れてきて、
「クマのグーニーとウサギのエドワード、ペリカンのスイッキー、犬のウォールツにペンギンのリリーだよ。みんな小さい頃からの友達なんだ。」と僕の自慢の友達を紹介した。


ぬいぐるみで遊んでいることがバカにされるのが怖かったけれど、みんなはそれを受け入れてくれた。
更にクラスのみんなもぬいぐるみを持ってきており、それぞれお話しに入れて欲しいと言ってきた。


「勿論さ。僕たちと一緒に最高のファンタジーを作ろうじゃないか。」
グーニーが言った。
「ファンタジーじゃなくて、心温まるホームコメディがいいなあ。」
ウサギのエドワードが言った。
「あら、恋の物語も素敵よ。ドキドキするわよ。」
ペリカンのスイッキーが言った。
「悪い人をやっつける警察物語も面白そうじゃないか?」
犬のウォールツが言った。
「惑星探検も面白そうね。」
ペンギンのリリーが言った。
みんな作りたいお話しが沢山ありすぎて、まとまらなかった。


でも、みんなの意見を全部取り入れたいなと思った僕はいいことを思い付いた。
「みんなの作りたいものを続き物のお話で書いたらどうだろう?」
「それだ!!」


僕の意見は満場一致で可決されて、早速物語の製作が始まった。
学校でも家でも夢中になって物語を作っていた。
来る日も来る日もみんなで物語を描いた。
あまりに夢中になっていた僕はみんなでお泊り会をして、物語について話し合うことを提案した。
これも満場一致で賛成だった。
みんなでお泊り会をしたいと両親に言うと、
「それじゃあ支度しないとね。」と笑顔で快諾してくれた。

両親も何だか嬉しそうで張り切っていた。


僕はみんなでお泊り会を楽しんだ。
そして・・・ついに僕たちの物語は完成した。

ぬいぐるみ達が活躍する人形劇だ。

ホームルームの後30分もらって、僕たちはドキドキしながら作った物語を披露した。

僕たちは夢中になって、みんなの前で人形劇を披露した。

何度も何度も練習していたので、クオリティはなかなかのものじゃないだろうかと思う。

結果、人形劇は大成功だった。

人形劇を終えた後、物語の製作に参加していなかったクラスのみんなが自分たちも一緒に作りたいと言ってくれた。
自分のクラスだけではもったいないので、他のクラスも回って人形劇を行った。
反響は上々で先生たちも感心してくれた。
こうして僕たちは新しいプロジェクトでクラスみんなで物語を作ることになり、再び忙しい毎日がやってきた。
来る日も来る日も物語を作ることに夢中になっていった。


あの日々から20年僕は今でも物語を作っている。
僕が描く物語には決まって5匹の登場人物がいる。
クマ、ウサギ、ペリカン、犬、ペンギンだ。
子供の頃からの大親友たち。
僕に友達を与えてくれた心の友。
決して彼らはしゃべることはない。
けれど、僕は今でも彼らと語り合う時がある。
そんな時、決まって彼らは僕に言うのだ、
「次はどんな物語を体験できるんだい?」ってね。

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