自作物語~第一作目「明かり」~
第一作目「明かり」
私は一体どうしてこんな所にいるのだろう?
周囲を見渡す。
暗い景色の中にほんのりいくつかの明かりがある。
ここは一体・・・・?
記憶を辿ってみるが全くわからない。
どうやって今いるこの場所に来たのだろう?
全く覚えていない。
わかっているのは自分がいるこの場所はいくつか見える明かりから、少し距離があり離れているということだろうか。
明かりの見える場所に行けば何かわかるかもしれない。
私はそう思い立ち、足元すら全く見えない暗がりの中を進んでいった。
時折冷たい風や暖かい風が吹きぬけていくが、それ以外は特に何もない。
ひたすら歩く。
歩いて・・・歩いて・・・歩いて…どれだけ歩いただろうか?
明かりのある方向に視線を向ける。
依然として距離は離れているが、段々と明かりに近づいている気配がある。
けれど、不思議なことが起きていて私は困惑した。
最初に明かりが見えたのは一か所だけだったのに、改めて明かりが見えた方角を見やれば、無数の明かりがバラバラに光っている。
確かに明かりに近づいてはいるのだが、一つの明かりに近づくにつれて、他の明かりからは大きく遠ざかっていた。
それも元居た地点から見るよりも、恐らく遠くなっていそうなのだから不思議だ。
兎に角一番近い明かりを目指して必死に歩き続ける。
どれだけ歩いただろう。
ようやく明かりのある場所に辿り着いた。
それは一軒家の家だった。
窓から暖かい光が零れている。
この家の人にここはどこか訪ねて、少し休ませてもらおう。
家の扉をノックする。
返事はなかった。
悪いとは思ったが、他にどうすることもできないので、「ごめん下さい」と言いながら玄関のノブを回してみた。
幸か不幸かカギが掛かっておらず扉が開いた。
私は家の中に少し入り改めて声をかけた。
「ごめん下さい」。
・・・やはり返事がない。
外出しているのだろうか。
勝手に家の中を物色するわけにもいかないので、玄関に置いてある腰の高さほどの椅子に座って、家の主を待つことに決めた。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
・・・この家についてから、ずいぶん経つ。
しかしながら、待てども家の主が返ってくる気配はない。
私は思い切って部屋を探してみることにした。
もしかしたら、家の中にいて眠っているだけかもしれない。
そっと各部屋をのぞいてみるが残念。
どの部屋にもカギが掛かっており、開けることが出来なかった。
しかし、その中で一つだけカギが掛かっていない部屋があった。
恐る恐る扉に手をかけて、中を覗いてみる。
誰もいない。
部屋の中央にテーブルが置かれていて、良く見ると手紙が置いてある。
その手紙を開いて読んでみた。
「ここは君の部屋だ。ゆっくりしていくといい。」と書かれていた。
この家の住人に宛てた手紙だろうか?
だとしたら、複数人でこの家に住んでいたのだろうか?
考えながら手紙を元に戻そうとしたとき、手紙の裏にも何か書かれていることに気づいた。
「お疲れ様。君は長い間時間を掛けて歩みを進めてここまでたどり着いたんだ。周りは何も見えずにさぞ怖くて不安だっただろう?どの明かりを目指せば良いのかわからなくなり不安だっただろう?しかし君は歩みを止めることなくここに辿り着いた。途中に他の明かりに行こうか悩んだり、この道で正しいのだろうかと不安になったこともあっただろう。けれど君はその道のりを超えて今ここにいる。窓から外を見てごらん?」
・・・手紙はここで終わっていた。
部屋の窓から外を見ると暗がりは晴れて、私が歩いてきた道のりが鮮やかに見える。
着いてしまうとあっという間だったが非常に楽しい旅路だった・・・。
そうか・・・私は・・・。
全てを理解した私はベッドで横になりゆっくりと眠りについた。
「あれは・・・私にとっての希望の明かりだったんだ。」
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